大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和54年(行ウ)10号 判決 1982年2月24日

原告 上村隆一

被告 丸森町長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

被告が昭和五三年六月二三日付でなした斎藤茂吉の昭和四八年度ないし昭和五二年度固定資産税に関する各更正決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

本案前の申立

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

本案の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  原告は宮城県伊具郡丸森町の住民である。

被告は、宮城県伊具郡丸森町字神明二二番二、宅地九〇五・八八平方メートルに関する納税義務者斎藤茂七に対する固定資産税として、昭和四八年度および昭和四九年度分それぞれ三七六〇円ずつ、昭和五〇年度分三七八〇円、昭和五一年度分四五三〇円、昭和五二年度分五九四〇円につき賦課決定をしてこのうち昭和四八年度ないし昭和五一年度分一万五八三〇円を徴収したものであるところ、いずれも昭和五三年六月二三日付の、昭和四八年度固定資産税更正通知書、昭和四九年度固定資産税更正通知書、昭和五〇年度固定資産税更正通知書、昭和五一年度固定資産税更正通知書および昭和五二年度固定資産税更正通知書をもつて、斎藤茂吉に宛て、錯誤課税を理由として税額を〇と更正した旨の通知をし、もつて右の賦課決定を取消した。そして被告は、昭和五四年三月三〇日付をもつて斎藤茂吉に対し、一万五八三〇円を固定資産税の還付金として交付する旨通知した。

二  被告が前記のように右土地に関する固定資産税の賦課決定を取消した処分は次の理由により違法である。

(一)  右の二二番二の土地はもと斎藤茂七の所有であつたが、昭和二〇年一二月七日家督相続を原因として斎藤茂吉が所有権を取得し昭和五二年八月六日にその旨の所有権移転登記を経由し、昭和五二年八月三〇日贈与を原因として原告と上村やすが持分二分の一ずつの割合で所有権を取得し、同月三一日に所有権移転登記手続をした。

被告は、右土地が斎藤茂七の所有であつた大正六年一一月二二日に同人所有にかかる宮城県伊具郡丸森町字神明二二番一、郡村宅地、一反二畝三歩と合筆されて合筆後の表示が二二番一、畑、一反九畝一四歩となつたのだから、本件土地は実在しなくなつたものであると主張する。

しかし、斎藤茂七は、二二番一の土地について地目変更と地積訂正をしたのみであつて二二番二の土地との合筆はしなかつた。従つて二二番二の土地は実在するものである。

仮に二二番二の土地と二二番一の土地が合筆されて合筆後の表示が二二番一となつたとしても、二二番二という登記簿の表示はなおそのまま残つており、二二番一の土地は昭和一三年九月一六日競売に付されて同年一〇月一一日に宍戸盛と宍戸登の両名が競落して所有権を取得したが、右のように二二番二の土地がそのままの表示で登記簿に残つている以上は、二二番一について競落しても登記簿上二二番二と表示されているその記載部分についても所有権移転登記を受けなければ、もと二二番二と表示されていた土地についての所有権取得を、現在二二番二と表示されている土地につき所有権移転登記を経た原告と上村やすには対抗できないものである。

(二)  二二番二の土地が斎藤茂七の所有であつた大正六年一一月二二日に二二番一の土地に合筆されて合筆後は二二番一と表示される土地の一部になり、昭和一三年九月一六日以降は宍戸盛、宍戸登の共有になつたものであるとしても、二二番二という表示の登記簿が残りこれにつき斎藤茂吉が相続による所有権移転登記をし、更に原告と上村やすが贈与を原因として所有権移転登記を得たことは前述のとおりである。

地方税法三四三条一項、二項によると、土地についての固定資産税は、土地登記簿若しくは土地補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者に課することとされている。これは、課税権者が土地の権利関係について登記簿の記載と異なる実質的判断をする権限はなく登記簿に所有者として表示されている者に課税しなければならないことを示したものである。

従つて、被告が二二番二の登記簿の記載と異なる判断をして賦課決定を取消したのは違法である。

(三)  地方税法一七条の五、一項によると、更正、決定、賦課決定は法定納期限の翌日から起算して三年を経過した以降はこれをすることができないこととされている。

被告による前記の各更正通知書は昭和五四年三月三〇日に斎藤茂吉に到達した。これは右条項に違背するものである。

仮に前記各更正通知が地方税法一七条の五、二項にいう減額の更正又は減額の賦課決定に該るとしても、昭和四八年度分の固定資産税に関しては五年の除斥期間が経過している。

仮に前記各賦課決定が錯誤課税であるならば課税処分が当然無効となるものだから、その賦課決定を取消すという更正をする理由はないというべきである。

三  被告による前記の各固定資産税賦課決定を取消した処分が違法であるため、これにより徴収済税額一万五八三〇円が還付されまた未徴収の昭和五二年度分税額五九四〇円が納付されないままとなると、右違法な処分により丸森町は同額の損害をこうむることとなる。

そこで原告は前記各更正通知が斎藤茂吉に到達した昭和五四年六月三〇日の翌日から一年以内の昭和五四年九月二七日に丸森町監査委員に対し地方自治法二四二条に基づく監査を請求し、右違法な処分の是正を求めたが、監査委員は同年一一月二日付をもつて原告の主張は理由ないとの監査結果を決定し同月三日にその決定書が原告に送達された。

そこで原告は右の違法な行政処分の取消しを求めるものである。

第三請求原因に対する被告の答弁

請求原因一項は認める。同二項の(一)のうち、二二番二の土地がもと斎藤茂七の所有であつたこと、その主張のように家督相続を原因として斎藤茂吉に所有権移転登記がなされ、また贈与を原因として原告と上村やすに所有権移転登記されたこと、被告が右土地は二二番一に合筆されて二二番二と呼称される土地は実在しない旨主張するものであること、右合筆後の二二番一の土地が競売に付されて宍戸盛と宍戸登の両名が競落により所有権を取得したこと、以上は認めるが、その余は否認する。同二項(二)のうち、二二番二の土地が二二番一に合筆されてその土地の一部になつたにもかかわらず二二番二という表示の登記簿が残つたままとなつたこと、地方税法三四三条一項、二項の定めがあること、以上は認めるが、その余は否認する。同二項(三)のうち地方税法一七条の五、一項、二項の定めがあることは認めるがその余は否認する。同三項のうち、原告が丸森町監査委員に監査請求し、監査委員がこれを理由ないものとする監査結果を決定して原告にその決定書を送達したことは認めるが、その余は否認する。

第四被告の主張

一  本案前の主張

(一)  更正処分に対する取消の訴は、当該処分について異議申立をしてその決定を経た後でなければ提起できないものであるところ(地方税法一九条の一二)、本件訴訟は右手続を経ないで提起された不適法なものである。

更に、原告は本件更正処分を受けた斎藤茂吉とは別人であつて右処分により自己の権利又は利益を侵害されておらず、その取消を求める法律上の利益を有せず従つて原告適格を欠くため本件訴訟は不適法である。

二  もと、宮城県伊具郡丸森町字神明二二番一・郡村宅地一反二畝三歩と同所二二番二・郡村宅地七畝歩は斎藤茂七(後に「伝五郎」と改名した。)の所有であつたところ、同人はこの二筆の土地を合併したうえ地目を畑に変更すべく大正三年一二月一日にまず所轄税務署に対しその手続をとつた結果、右二筆の土地は合併されて土地台帳上は二二番一・畑一反九畝一四歩と表示された。そこで同人は大正六年一一月二二日に所轄登記所に対し右土地台帳謄本を添付して右二筆の土地につき合筆登記および地目変更登記の申請をした結果、右二筆の土地は合筆されて登記簿上は二二番一・畑一反九畝一四歩と表示された。

そこで、所轄登記所においては二二番二の土地登記簿用紙を抹消して閉鎖の処理をなすべきものであつたが、どうした事情かその処理がなされずこれが登記簿に編てつされたままになつていた。このように二二番二の登記簿用紙が無効で抹消閉鎖処理されるべきものであつたのに丸森町吏員がこれを知らず有効なものと誤解し、そのまま土地課税台帳に登載してしまつた。被告はこの土地課税台帳に基づいて固定資産税の昭和四八年度分から昭和五二年度分までを斎藤茂七に対して賦課した。しかし、調査の結果この課税処分には以下に述べるように瑕疵のあることが判明したので更正の通知により賦課決定を取消したものである。

三  もと二二番二で表示された土地は二二番一と合筆されて合筆後の二二番一で表示される土地の一部となつたから、登記簿上に残つたままとなつている二二番二という表示に対応する土地は実在しないこと前述のとおりであるから、二二番二の土地に関し斎藤茂七に対してなした固定資産税の賦課決定は実在しない土地に対する課税処分である。

四  現在登記簿上に二二番二と表示されるのに対応する土地がもと二二番二と表示されていた土地を指し従つて実在するものであるとしても、この土地は昭和一三年一〇月三一日以来、宍戸盛、宍戸登およびその子である宍戸邦夫、宍戸冨男において耕作されてきた畑地であつて、昭和四八年度ないし五二年度における課税標準額は二万一二九八円ないし二万六七一九円となる。そして地方税法三五一条により課税標準額が一五万円未満の土地には固定資産税を賦課できないこととなつているから、右土地についての賦課決定は課税できない土地に課税したことになる。

五  斎藤茂七は既に昭和二〇年一二月七日死亡していた。従つて同人に対して賦課決定したのは死者に対し課税したことになる。

六  これら事実にてらしてみると、二二番二の土地につき斎藤茂七に対してなした昭和四八年度ないし昭和五二年度の固定資産税の賦課決定は瑕疵ある行政処分であり、被告は後日これを知つたのでこれを是正するため昭和五三年六月二三日に更正の方法により右各賦課決定を取消して更正通知書を斎藤茂七の相続人である斎藤茂吉にあてて昭和五四年四月初め発送し、同人にその頃到達した。またこれとあわせて徴収済みの税額一万五八三〇円について還付する手続をとつたものである。

七  被告は、固定資産税額更正通知という方法で固定資産税の賦課決定を取消したものであるが、これはいわゆる減額更正ではないからこれを前提として期間制限をいう原告の主張は失当であり、地方税法一七条の五の期間制限は納税者に利益となる処分については適用されないと解すべきである。

また、徴収済税額の還付は過誤納金還付の手続である。

これら課税処分の取消しと過誤納金の還付は相手方に何ら不利益を及ぼすものでないから期間徒過の違法ということはない。

第五証拠<省略>

理由

一  被告の本案前の主張について

被告は、前置手続の欠如や当事者適格と訴の利益を欠くことを理由に本訴訟が不適法である旨主張するが、被告の主張は行政処分を受けた相手がその取消を求めて提起する抗告訴訟を前提とするものである。しかし、原告は地方自治法二四二条の二に基づき丸森町の住民たる資格において地方公共団体の執行機関である被告がなした固定資産税に関する処分につきそれが違法であるとしてその取消を求めているものであつて本訴訟は住民訴訟であり、これには被告主張のように抗告訴訟におけると同じ要件は求められていないから、被告の主張は理由がないというべきである。

二  宮城県伊具郡丸森町字神明二二番二、宅地九〇五・八八平方メートルと表示された土地の登記簿があること、右登記簿表示の土地につき、昭和五二年八月六日に昭和二〇年一二月七日家督相続を原因として斎藤茂七から斎藤茂吉に所有権が移転した旨の登記がなされ、更に昭和五二年八月三一日に同月三〇日贈与を原因として原告と上村やすにつき各持分二分の一の割合による所有権移転登記がなされたこと、被告が、斎藤茂七を納税義務者として右土地に関する固定資産税につき、昭和四八年度および昭和四九年度分各三七六〇円、昭和五〇年度分三七八〇円、昭和五一年度分四五三〇円、昭和五二年度分五九四〇円の各賦課決定をし、このうち昭和四八年度ないし昭和五一年度分一万五八三〇円を徴収したが、いずれも昭和五三年六月二三日付の昭和四八年度分ないし昭和五二年度分各固定資産税更正通知書をもつて、斎藤茂吉に宛て、錯誤課税を理由に税額を〇と更正した旨の通知をし、もつて右の賦課決定を取消したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

三(一)  いずれも成立に争いのない甲第五号証、乙第一、第二、第四および第五号証、乙第七号証の一、二、乙第八号証の一ないし三、乙第一〇号証の一ないし三、乙第一一号証の一、二、乙第一二号証の一ないし三、乙第一三号証、乙第三二号証、証人斉藤一男の証言により真正に成立したと認められる乙第二八号証、証人斉藤一男の証言を綜合すると次の事実が認められる。

斎藤茂七は宮城県伊具郡丸森町字神明二一番一、郡村宅地一反二畝三歩と同所二二番二、郡村宅地七畝歩を所有し、その位置関係は二二番一の土地の北側に二二番二の土地が隣接し両土地を合わせると南北に長く長方形をなす形状であつた。同人はこの二筆の土地を合併し地目を畑にするため大正三年一二月一日頃にまず土地台帳につき所轄税務署に対しその手続をとつた結果、同月五日にこれが合併されまた地目が変更されて合併後の表示が同所二二番一、畑一反九畝一四歩となつた。その後同人は所轄登記所に対し土地合筆と地目変更の登記手続をとつた結果、大正六年一一月二二日に右二筆の土地は合筆されまた地目が変更されて、合筆後の表示が同所二二番一、畑一反九畝一四歩となつた。

この合筆後の二二番一の土地につき、昭和一三年九月一七日に斎藤茂七の債権者株式会社日本勧業銀行から競売申立がなされ、同年一〇月一一日に宍戸盛と宍戸登が競落し、同月三一日に右両名に所有権移転登記がなされた。

その後昭和二六年二月一二日にこの土地は同所二二番一、畑一反五畝一一歩と同所二二番三、畑四畝三歩とに分筆され、この二二番三の土地は堤防用地として建設省に譲渡された。二二番三の土地は合筆後の二二番一の北側部分であり、合筆前の二二番二の北側約半分に相当する部分である。

宍戸登は昭和二八年六月二七日死亡して宍戸冨男が相続し、宍戸盛は昭和三六年一一月二二日死亡して宍戸邦夫が相続した。

このように斎藤茂七が所有していたもとの二二番二の土地は、二二番一の土地と合筆し合筆後の表示が二二番一となることによりその一部となつたのであるから、二二番二の土地の登記用紙の表題部に合併によつて二二番一の土地の登記用紙に移した旨を記載して二二番二の土地の表示を抹消しその登記用紙を閉鎖しなければならなかつたところこれら措置がとられないまま二二番二の登記用紙がそのまま残つてしまつた。

もと斎藤茂七が所有した分筆前の二二番二の土地は、現在宍戸冨男と宍戸邦夫とが所有する二二番一の土地の一部と建設省が所有する二二番三の土地とに相当する部分になつており、その結果現在の登記用紙に表示されている二二番二に対応する土地は存在しないことになる。

(二)  いずれも成立に争いがない甲第五号証、乙第一四および第三二号証、乙第三四号証の一ないし三、証人斉藤一男の証言によると、右の二二番二の土地登記簿用紙が閉鎖されないで残つたため、二二番一と二二番二の土地二筆が合筆されていないという前提のもとに国土調査が行われその結果昭和四七年九月二七日に、二二番一が畑八九三平方メートル、二二番二が宅地九〇五・八八平方メートルに地積訂正されて登記されたこと、また被告は二二番二の登記簿の表示に対応する土地が実在すると誤信して課税台帳を作成したこと、以上の事実が認められる。

二二番二の土地登記簿につき斎藤茂七から斎藤茂吉に相続による所有権移転登記を経由したうえで贈与を原因として原告と上村やすに所有権移転登記がなされたこと、被告が斎藤茂七を納税義務者として固定資産税の賦課決定をしたことは前述のとおりである。

(三)  以上認定した事実に徴すると、もと斎藤茂七が所有した二二番二の土地は二二番一の土地と合併、合筆されてその後の表示が二二番一となつたため閉鎖されないで登記簿に残つた二二番二の表示に対応する土地は存在しなくなつたものであり、被告が二二番二の土地に関し斎藤茂七に対して固定資産税を賦課決定したのは実在しない土地を目的に課税したことになり、人が財産を所有しているという事実に基づいて課する財産税の趣旨にてらしてみるときこの賦課決定は課税できないものに課税した無効な行政処分であるということができる。

(四)  原告は、地方税法三四三条を根拠に、課税権者には登記簿の記載と異なる実質的判断をする権限がないもので登記簿に二二番二の土地とその所有名義人が登記されている以上はこの土地についての固定資産税をその所有名義人に賦課しなければならない旨主張するので判断する。

地方税法三四三条一項および二項には、賦課期日現在において登記簿に所有者として登記されている者を納税義務者とする旨規定されており、これは表見課税の原則を示した一例であるといわれている。この表見課税の原則は、私法秩序を尊重し私法上の法形式や名義に即して課税物件と納税義務者の帰属関係を判断しようとするものであり、財産が法律形式上帰属する者と経済的実質を享受する者とが異なつている場合にその実質に則して課税をなす実質課税の原則に相対するものである。

このように、表見課税とか実質課税というのは財産と納税義務者との関係について論じられるものであり、地方税法三四三条は不動産の実質上の所有者と所有名義人とが異なつていても所有名義人をもつて納税義務者とする、ということにすぎず、前述のように登記簿に記載されているのに対応する土地が存在しない場合でもその登記簿の所有名義人に課税することまでを定めたものとは解されない。

従つて、登記簿に二二番二の土地の表示がある以上はその所有名義人に固定資産税を賦課すべきものでその賦課決定を取消したのは違法であるという原告の主張は採用できない。

四  被告が二二番二の土地に関する斎藤茂七に対する昭和四八年度分ないし昭和五二年度分固定資産税の賦課決定を更正通知という方法により取消したことは前述のとおりである。

原告は、地方税法一七条の五、一項によると更正、決定、賦課決定は法定納期限の翌日から三年を経過した以降はすることができないこととされているから、被告がなした更正通知はこれに違背し、またそうでなくとも昭和四八年度分固定資産税に関しては同法一七条の五、二項に定める五年の期間を徒過した違法がある旨主張するので判断する。

成立に争いのない甲第二号証の一ないし五によると、被告は、斎藤茂七の相続人である斎藤茂吉に宛てたいずれも固定資産税更正通知書なる標題の文書により、昭和四八年度分と昭和四九年度分各三七六〇円、昭和五〇年度分三七八〇円、昭和五一年度分四五三〇円、昭和五二年度分五九四〇円の各固定資産税額につき、これらをいずれも更正額〇円としていることが認められるけれども、前記のように本件の賦課処分が元来無効な賦課処分であることを併せ考えると、更正という形式をとつているとはいえ、その性質は賦課決定が無効であることを確認し、形式的に存在する賦課決定を消滅させるための取消であり、このような無効な賦課処分の無効を確認する意味の取消処分は地方税法一七条の五にいう更正や決定には該らず、右の取消処分については期間の制限はないものと解するのが相当であるから、結局、本件の賦課決定の取消について地方税法一七条の五、一項、二項を根拠とする原告の主張は採用できない。

五  原告は、錯誤課税であるなら取消すまでもなく当然無効であるとして取消処分をしたのが違法である旨主張する。

しかし、成立に争いのない乙第三四号証の一ないし八によると、二二番二の土地に課税するための固定資産税台帳が存在し、これに基づいて賦課決定がなされるなど外観上適法にみえる行政処分の形式が存在するものと認められるから、行政処分の無効であることが一見して明白な場合と異なり、その無効であることを確認し外観上存在する行政処分の形式を消滅させるための取消処分が必要であると解されるし、賦課決定が無効であつてもその賦課決定に基づいて納入された金額は過納金として還付すべきものとなるところ過納金を還付するためには賦課決定を取消さなければならないとされているから、このような租税面における手続上の面からも賦課決定を取消す必要があるものと考えられる。従つて原告の右主張は理由がない。

六  以上のとおりであり、被告が登記簿に表示されている二二番二の土地に関し斎藤茂七を納税義務者として賦課決定した昭和四八年度ないし五二年度分固定資産税につき、右登記簿表示の土地が存在しないことを理由に賦課決定を取消した処分は違法でないと認められるから、これが違法であるとして取消処分の取消を求める原告の本訴請求は理由がない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 斎藤清実 加藤謙一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例